コンラッドは寒がりだ。
そして、おれのことを湯たんぽかなにかと勘違いしているのかもしれない。
夕食前の小腹が空く時間。
手持ち無沙汰で色鮮やかな映像が続くテレビをぼんやり眺めていたおれは、窓の外に目を向けた。どんよりと暗くて重い空が広がっていて、いまにも何かが降り出しそうだ。
降りだす前に散歩に行かなくちゃと思いながらも、コタツの魔力にはなかなか勝てずに立ち上がれないままでいた。
そもそも、コンラッドがいない。
最近は料理にハマったのか、今日もキッチンでお袋の手伝い中だ。ちなみに、おれが呼ばれないのは邪魔になるから。別に不器用だからとかじゃなくて、三人もいたら狭いだろうってだけ。たぶん。
コンラッドは物覚えがいいらしくて、お袋が上機嫌であれこれ教えていたけれど、今日のメニューならおれでも作れるぜ。
野菜を煮るにおいが、カレーのにおいに変わる頃に、後ろでドアが開く音がした。
隠しているわけでもないのにあまり大きな足音を立てないのはコンラッドだ。
「おかえり。おつかれさん」
「ただいま」
振り向かないまま声をかけると、予想通りのコンラッドが、いつものようにおれの後ろにやってきた。
いま、おれしかコタツに入っていないんだから三辺が空いているのに、コンラッドはいつだっておれの後ろに座る。確かに、テレビの真正面の一番よい席かもしれないけれど、あまりコタツの恩恵を受けれないのに。
そのまま座るのかなと思ったコンラッドは、おれの後ろで立ち止まったまま。座らないコンラッドの視線をつむじに感じて、どうしたのだろうと振り向きかけたんだけど。
「うわっ」
首に冷たい感触がしておれは肩を竦ませた。
氷のように冷たい手がおれの首に触れていた。外してくれないものだから、竦ませた肩と首の間に挟まれて、なおも冷たいままだ。
「つめたいって、こら。コンラッド」
「あったかいですよ」
「そりゃあったかいだろうさ。でも、おれはつーめーたーいーのー」
水仕事の後の手は凍えそうなぐらい冷たい。しばらくおれの首に触れたままの冷たい感触が少しやわらいだのはたぶんおれの体温が下がったせい。
ぶるっと軽く身震いしたところでようやく首の拘束がとけたけれど、今度は座ったコンラッドに後ろから腹を拘束されておれはまた動けなくなった。
「せっかくあったまってたのに」
「すみません。あんまりユーリがあったかそうだったから」
おれを膝の間にかかえて足だけ申し訳程度にこたつにいれたコンラッドの手は、やっぱりつめたい。手だけじゃなく体中が冷たくて、おんぶおばけみたいにくっつかれた背中がかなり寒い。
「さむいなら、ちゃんとこたつに入ればいいのに」
「ユーリがあったかいから、大丈夫ですよ」
「おれは、湯たんぽかよ」
「湯たんぽよりもあったかいです。こっちの方が好きだな」
肩に顎がのせられて、なにが楽しいのかすぐ耳元で笑い声が聞こえた。ちょっとくすぐったい。
そのまま冷たい頬をくっつけてくるものだから、やっぱりおれは寒いのに、コンラッドはおかまいなしだ。
ぴったりとコンラッドが覆いかぶさってくる背中とか、腹にまわされた腕とか、くっついた頬とか。つめたいのに、あったかい気がして、重さは温かさなんだなと、なにかの本で読んだ言葉を思い出した。
「あ、雪だ」
いつの間にか、窓の外では白いものが舞っていた。
タイミングよくテレビの向こうではお天気お姉さんが初雪を伝えていた。
「散歩、どうしよっか」
「明日にしましょうか」
「そうだな」
きっと外はものすごく寒い。
いつもおれと手を繋いでにこにこしているコンラッドだ。散歩は大好きなはずなのにあっさりと中止を決めてくれたから、おれはありがたくそれに従うことにした。
「あったかいですね」
「うん、あったかいな」
ものすごく冷たかったはずのお腹も背中もいつの間にかあったかくなっていて、心地がいい。
もうしばらくこのままでいたいかなと、おれは後ろに遠慮なくもたれかかった。